コンテンツ重視の時代に欠かせないWEBメディアのブランディング論〜【セミナーレポート 後編】
セミナー概要:
デジタルと非デジタル、それぞれの視点を交えながら「今求められているメディアとは何か」を紐解くセミナーを開催。BRUTUSやVOGUE、GQなど数々の媒体で編集長を歴任し2016年にクオリティーメディア「Byron」をウェブ創刊された齋藤和弘様とネットメディア運営に精通するINCLUSIVE株式会社 代表取締役の藤田誠様に講演頂きました。
開催日:2017年2月21日 @中目黒(株式会社オムニバス本社)
講演内容:
「コンテンツ重視の時代に考えるこれからのWEBメディア論」(講師:齋藤和弘氏・藤田誠氏)
「動画コンテンツを流通させるためのマーケットプレイスVISM」(株式会社オムニバス)
パネルディスカッション
前編はコチラ
■WEBメディアで儲かるのは創業者と社長だけ?
斎藤 WEBと雑誌でコンテンツの作り方は変えていませんが、雑誌のコンテンツの作り方はもっと複雑かつ人やお金のかかり方がもっと多いです。なので、考え方は一緒でもお金のかけ方は全然違います。入ってくるお金がそもそも桁が1つ違うくらいなので、使えるお金もそれに比例して違ってきます。
例えば、WEBではみんなが同じようなレベルでライター費用とか編集費用とかをかけていますが、雑誌の場合はその「ランク」にも驚異的な差があって、画像1つとっても1流の写真家と3流のそれでは100倍くらいの違いになります。そしてその100倍も高い制作費用を賄えるだけのインカムは、WEBにはまだ無いということです。簡単に言うと、WEBメディアで儲かるのは創業者と社長だけです。残りの人は本当に少ない金額で蟻のように働いているじゃないですか。この何年間かWEBの世界を横から見ていて、こんなことでいいのか?と非常に感じていました。
藤田 ちなみにByronのライター費用は他のネット媒体と比較しても高くなっています。ライターとしてのレベルの高い人たちに、出来るだけ紙媒体と同じくらいちゃんとお支払いしたいと思っています。それというのは先ほどの斎藤さんのお話にもありましたが、この今の時代に90年代の雑誌の作り方が果たしてネット上で実現できるのかという挑戦なので、それをやってみたいと思っているからです。
創刊から約1年経ちこれがマネタイズできるようになってきました。「わかってくれる人だけ買ってくれればよい」というクライアント様が「わかってくれる人だけ読んでくれればよい」というByronに出会ったような感じです。
■PVが倍増せずに広告料が倍増した理由
斎藤 ハイエンドのブランド広告主と、日本のそれに対応するWEBメディアというのは非対称形になっています。つまりハイエンドブランドの広告出稿にふさわしいメディアの数が足りないんです。この状況は、私が現役のころだった7年ほど前からそうだったので、今はもっとそうだと思います。ハイエンドブランドのマーケッターにとってネット広告は「バジェットの5%、10%を使いなさい」という指示がブランド本国から出されるほどの重要課題であるにも関わらず、出稿に使えるだけの媒体が無いんです。使える媒体というのはつまり、一定以上のコンテンツのレベルを保った媒体ということです。
私は今、もうひとつファッション系のWEBメディアでコンサルを務めていますが、そこではこの2年間、ほぼ倍々ゲームで広告売上が上がって来ています。別にそのサイトのPVが2倍、3倍になった訳ではありません。コンテンツの質が同等以上のサイトが他に無いことで、結果的に入ってくる広告の量が2倍、3倍に増えてきているのです。
山本 これまでそういったWEBでの掲出先に困っている広告主さんって、経済系の媒体に出されていましたよね。おそらくそれも「他に出すところが無い」というのと同じ状態なのかと思います。
■ブランディングにコスパなど無い
藤田 僕らは媒体社の営業として動くこともありますが。狙っているターゲットによって「質」っていうものも変化すると考えています。例えば僕は東洋経済が大好きですし、つまり僕にとっての良い媒体ですけれど、他の人にとっても良い媒体であるか、質が高いと言えるかというとそうじゃないですよね。質っていうのは人によって違いますから、それに合致した広告がちゃんと違和感なくはまれば良いと思うのですが。その辺りの目利き力みたいなものを、広告主さんや代理店さんにはつけて頂けると良いのかなぁと。もちろんそれをちゃんと伝えるのも媒体側の仕事ですけれど。
山本 我々が感じる問題としては、WEB広告業界などに居るとすぐに「PV、クリック単価」という話になってしまい、広告が高く売れるイメージがあんまり無いところかと思います。そういう話もある側面では必要ですが、それはそれとして、いかに価値を高めるかという話との棲み分けも大事だと思います。
藤田 WEB広告という話よりも、広告主・代理店・媒体者という関係の中で、広告っていうのは広告主のマーケティング課題を解決するための手段で、さらにその中間KPIがクリック単価などの数値指標じゃないですか。なのでフォーカスするのなら最終的にはいかにクライアントの課題を解決するかという点にフォーカスした方が良いと思います。
斎藤 WEB上だと年間を通すとか、タームの長い広告が無い気がするんですね。通常、雑誌でハイエンドブランドの広告出稿の話をする場合、最低でも6カ月単位なんですよ。下手すると1年単位で話をします。そういう長い期間の中で、総額いくらで、ページ数がいくらで、と決めていきます。これはどちらかというとオフィシャルスポンサードに近い考え方ですよね。でも、WEB広告ではこういう話をほとんど聞きません。
斎藤 オリンピックのスポンサー契約みたいなことをやればいいんですけど、なかなかできない。それはなぜかというと、そのメディアが、集客(PV)は日によって出たり入ったりすると思いますけど、誰に対してどんな意図があるのか、何をどうするのかっていうのが明快に見えないんですよ。そこが無いまま他とも違わずにいると、あそこもあればここもあるっていう横並びにしか見えない。そしたら年間スポンサードのような契約をしなくても、いちばん数字の良いところにすればいいじゃん、という話になってしまう気がしますね。
クライアントもお金を出して広告を載せるっていう意味で、ある種参加をします。その「参加」っていう意識が弱いと、広告を見てもらったかどうか、クリックされたかどうかという、、、
山本 アドテクノロジーの悪いところで、Excelで、このメディアのクリックレートはこうだ、みたいな。ああいう世界になっちゃうんですよね。どこのメディアに参画しているかっていうよりも、パフォーマンスを買っているっていうか。
斎藤 コスパで考えるとダメなんです。コスパで考え始めちゃったら、ブランディングなんて絶対できません。
藤田 特にByronではタイアップを意識していて、タイアップっていうのはByronの世界観と、クライアントの世界観をくっつけるからタイアップなわけで、一緒になるとどういうことが出来るのか、普段の記事よりも面白く作らないといけないし、腕の見せ所だと思っています。そういう意味で、ネイティブアドっていうのはどう考えるんだと。あれは誘導枠として媒体社に入るわけで、クライアントさんが誘導した先にあるオウンドメディアっていうのはつまりどういうメディアブランドにしていかないといけないのかを考えていかないといけないですね。
■生半可な気持ちでのオウンドメディア運営は「おこがましい」
山本 今年、日本のブランドマーケターが一番取り組みたい施策は何か?っていうアンケートで「オウンドメディア」が1位になったことがあって。ここはどういう風に成功させたらいいのかなと。
斎藤 私には専門外なので分からないことは多いですが…でも、自分のところでメディアが作れると思っているブランドマネージャーはおこがましいんじゃないですか?メディアに出稿した経験こそあれ、メディアを作った経験はないのに、オウンドメディア=つまり自分たちのメディアを作ってそのプロデュースやディレクションなんか出来る訳がないんです。そういう意味で「おこがましい」。もうちょっと謙虚に、堅実に。良いライターからテクニカルな人材から流通を組み立てる技術者から、すべて集めてきてひとつのチームにするしかないと思います。その時にオウンドメディアが、自社のメディアとして、ほかの競合会社のオウンドメディアとどう違うものに育てていくのかは、コンテンツにお金をかけるしかない。そこで最終的に欲しいのはおそらくマーケティングデータな訳だから、そこはテクノロジーが必要ですが、コンテンツがかなりしっかりしない限り、生半可なものでは「でもこれってあの会社が作った記事でしょ?」でユーザーにとっては終わってしまって、意味がないと思います。
藤田 今のは斎藤さんの「Byron 編集長」としての考えですよね。僕が思うのは、普通に毎月150本~300本くらいの記事を作っていると思うんですね、どの媒体さんも。自分たちの属する限られたジャンルの中で、さらにものすごく頑張ってそれだけコンテンツ制作されている。オウンドメディアっていうのは、平均的にどのくらいでしょう?月に多くて8本くらい、または週に1本で月4本くらいの制作量だと、世界観っていうのはなかなか作るのは難しいんじゃないかなぁと思います。「オウンドコンテンツ」とは確かに言っても良いかもしれませんが、オウンドメディアとまでは言わないほうがいいんじゃないか、という気もしています。
山本 企業のメディアの場合どのくらいの記事を書くのが良いでしょうか?
藤田 普通にメディアとして運営したいんだったら1日2~3本は出していかないと、訪問して貰えないというか、何度も見てもらえる、日常のローテーションの中に入らないんじゃないでしょうか。そうしないと、集客のために広告で誘導をかけるだけの場になってしまいますよね。
山本 ありがとうございました。
■—ゲスト紹介—■
斎藤 和弘 (さいとう かずひろ)
編集者/明治大学特任教授。平凡社「太陽」編集部を経て1996年からマガジンハウス「BRUTUS」編集長、2001年にコンデナスト・パブリケーションズ・ジャパンの代表取締役社長に就任、「VOGUE」の編集長も兼務。2009年末に退社し、フリー編集者・メディア開発コンサルタントとして活躍中。2016年より「Byron」創刊編集長。ファッションブランド論の第一人者。明治大学特任教授も兼務。
藤田 誠(ふじた まこと)
INCLUSIVE株式会社代表取締役。広告代理店、ゲーム会社、ウェブメディア、ポータルサイトでの勤務を経て、2007年、メディア収益化に特化したブティック型エージェンシー、INCLUSIVE(旧targeting)設立。小学館、集英社、三栄書房、扶桑社、CCCメディアハウス、マガジンハウス、TBSテレビ、CBCテレビなどの雑誌媒体のデジタル化、新規ウェブ媒体の事業立案・運営・収益化を多数行う。ウェブメディア界の仕事人。
〜セミナーではこの後会場の皆様からの質疑応答を行いました。ご興味のある方はぜひお気軽に下記までお問い合わせ下さい〜
株式会社オムニバス セミナー担当 藤本
TEL: 03-5725-8317 MAIL: info@e-omnibus.co.jp